■急性胃腸炎

これもやっかいな病気ですね。やっかいというのは重病ということではなくて、説明がむずかしいということです。医者によってまちまちな病名をつけるので、患者さんとわれわれ医者とで(医者同士でも)共通の認識をもちにくいからです。

  一般に、下痢(げり)をしたら「下痢症」、吐いたら「嘔吐(おうと)症」、吐いて下痢していれば「嘔吐下痢症」です。これらをまとめて急性胃腸炎と呼びます。「急性下痢症」、「急性腸炎」、「消化不良」などはだいたい同じ病気です。古くは「大腸カタル」なんて呼び方もありました。「ウイルス性胃腸炎」という人もあれば、「ロタウイルスによる嘔吐下痢」とより具体的な原因をあげる人もあり、果ては「かぜ菌がおなかに入った」とか「寝冷え」なんて、およそ医学的でない言い方をする人もありといった現状で、言葉の使い方がかなり混乱しています。同じ症状でも医者によって言うことがまちまちなのは、いろいろな呼び方があるからです。吐くのがひどいとすぐに「自家中毒」と診断する人もあります。さらには、みなさんが恐れる「食中毒」も、じつはこの仲間なんです。

 ここで述べる急性胃腸炎は、病原体が胃腸(消化管)に感染して、下痢したり吐いたりする病気、つまり感染性胃腸炎です。消化管の感染以外にも下痢や嘔吐の原因はいろいろありますが、ここではこれに限っておはなしします。

  大きく分けるとウイルスによるもの(ウイルス性)と細菌によるもの(細菌性)のふたつがあります。圧倒的に多いのはウイルス性胃腸炎です。でも、診察したり便を見ただけではこの区別はなかなかつきません。ウイルスや細菌の検査をしてはじめて診断がつきます。ウイルスの検査は、ロタウイルス以外はふつうできません。細菌は培養検査で診断します。培養は結果が出るまでに3日くらいかかります。細菌が出なければウイルスの可能性が高いということになります。一目見てウイルス性、細菌性と断定する先生は、か   下痢にはふつう下痢止めが使わ
  下痢にはふつう下痢止めが使われますが、病原性大腸菌O-157の大流行があってから、やたらに下痢止めを使ってはいけないという風潮が生まれています。O-157で下痢を止めると症状が悪化する可能性があるからです。ボクは細菌感染が疑われる場合は抗生物質を使って下痢止めをなるべく使わない、ウイルス性と考えた場合には下痢止めを使ってもよいというのが妥当な治療の目安でないかと思います。抗生物質はO-157はじめ、下痢の原因となる多くの細菌に有効なホスホマイシンがまず用いられます。圧倒的に多いのはウイルス性なのですが、何でもかんでも抗生物質を使う先生もいて、現場は混乱しています。ボクの基準は、便に血が混じる血便が出たり、回数がすごく多い、おなかの痛みが激しくて重症感があるなんて場合には、便の培養検査を出してから抗生物質を使う、そうでなければ下痢止めを使うというふうにしています。共通の治療として、症状が強ければ点滴をして水分補給をします。外来点滴で改善しなければ、入院して続けて点滴する必要があります。

  ウイルス性胃腸炎の原因として、便が白くなるロタウイルスが有名ですね。前は冬に流行るのはぜんぶロタウイルスだと思われて、冬季下痢症=白色便下痢症=ロタウイルス感染症と単純に診断されていました。でも近頃ではもうひとつ、小型球形ウイルス(SRSV)が注目を浴びていますふたつとも症状はほとんど同じで、区別がつきません。冬に下痢をして医者に行くとロタウイルスと言われることが多いのですが、実際にはロタウイルスの流行は、近頃は冬でなく春先です。冬にはむしろSRSVの流行が顕著です。ウイルスと言っても、かぜ症状を起こすウイルスとは違いますので、「かぜ菌」とは言えませんね。

  細菌性胃腸炎はこどもでは大腸菌、ブドウ球菌、サルモネラ菌、カンピロバクター菌などがよく原因になります。これらの細菌や、小型球形ウイルスが同じ食べ物を介して多数の人に感染した状態を「食中毒」と呼びます。食中毒も一人一人を見れば感染性胃腸炎なのです。
吐いたら飲ませるな!

 多くの方は、吐くと脱水を心配して、水分をたくさんとらせようと、すぐに飲ませてしまいます。これは吐き気を誘発するので、逆効果です。

 吐いたら最低1時間は何も口に入れない、が鉄則です。

  おなかを休めるだけでも吐き気をしずめる効果があります。吐き気が落ち着いてから、少しずつ飲ませはじめて、吐かないことを確認しながら、だんだん量を増やしていってください。食事(固形物)は水分が十分に入るようになってからでも遅くはないので、無理に食べさせる必要はありません。。ウイルス性胃腸炎の場合、だいたい半日で吐き気は自然におさまります。

 吐き気止めの坐薬(商品名ナウゼリンなど)がありますので、ぜひ常備してください。夜間などの緊急時、吐いたらすぐに入れて、1時間は飲ませない。これで多くの場合乗り切ることができます。

 追記:小型球形ウイルス(SRSV)はノーウォーク様ウイルスなどとも呼ばれていましたが、2002年にノロウイルスと命名されました。